医学科 Medicine

薬理学

薬理学講座は、昭和48年から平成4年まで、酒井 豊名誉教授が、平成4年から平成27年まで、渡邊 康裕名誉教授が、平成27年度から現在まで、現教授の石塚 俊晶が、主宰している。平成4年度から現在までは、准教授 2名、講師 1名、助手(助教) 7名が着任した。
特に、平成15年6月に西尾 昌洋博士(現 三重大学生物資源学部准教授)が米国留学のため、平成21年3月に諌田 泰成博士が国立医薬品衛生研究所薬理部第2室長として転出した。また、平成27年4月に石塚 俊晶が教授に昇任後は、同年10月に本校麻酔科学講座より佐藤 泰司講師が准教授として着任した。
現在は、助教は1名採用予定となっている。医学研究科では、平成4年度以降は8名が在籍し、医学博士の学位を取得した。

薬草学見学

薬草園見学(3年生)

医学科第2学年から第4学年に対する年間約70時間の講義と約25時間の実習、および看護学科第2学年に対する年間約20時間の講義を担当している。
医学科第2学年では、受容体の働きや神経伝達物質の作用などの基礎薬理学総論、第3学年では、循環器系、消化器系、呼吸器系、神経系、内分泌代謝系、血液系薬理学などの基礎薬理学各論を、第4学年では、薬物動態、薬物相互作用、医薬品開発および治験などの臨床薬理学を中心に講義を行っている。
平成21年、本講座が中心となり編集した医学部学生用教科書「集中講義薬理学」が刊行され、本書を活用した講義が行われている。また、抗体治療学や腫瘍免疫治療学など、先端医療に精通した研究者の方々を招聘し、最新の薬物治療学に関する講義も行っている。薬理学実習では、アセチルコリン受容体作動薬や遮断薬が骨格筋や腸管平滑筋に与える影響、アドレナリン受容体遮断薬の血圧や心拍数に与える影響、覚せい剤や麻薬が行動に与える影響、二重盲検法を用いた作業能率に与えるカフェインの影響、薬草植物園見学などを実施している。
さらに、医学部卒前教育のグローバル化を視野に入れ、外国人向け米国医師国家試験(USMLE)受験用問題集(薬理学プレテスト 医学書院)を翻訳し刊行し、学生の勉学の資として用いている。

日本薬理学関東部会

日本薬理学会関東部会

薬理学講座では、主として、薬物と生体の特異的な相互作用に関する受容体と細胞内情報伝達機構の役割についての研究を実施している。特に、これまで、1) 肥満症や糖尿病での間葉系幹細胞の機能異常に関する研究、2) 精神疾患での神経新生異常に関する薬理学的研究、3) 幹細胞機能に影響を及ぼす細胞内機構の解明、4) 自閉症や神経発達障害における細胞外シグナル伝達キナーゼ(ERK)の役割、などを主体に実施している。
平成24年10月には、第127回日本薬理学会関東部会を「再生医療への薬理学の貢献をめざして」と題して東京国際フォーラムにて主催した。


1)肥満症や糖尿病での間葉系幹細胞の機能異常に関する研究
a)マウス骨髄由来間葉系幹細胞における活性酸素種の産生増加が、cyclic AMP response element binding protein (CREB) の転写を活性化し脂肪細胞への分化を促進していることを明らかにした。新たな抗肥満薬の開発につながる成果である。
b)高濃度グルコース刺激による活性酸素産生増加が、低酸素環境でのマウス間葉系幹細胞のhypoxia–inducible factor 1 alpha (HIF–1 alpha) の発現を抑制し、増殖因子の産生低下をもたらすことを明らかにした。糖尿病患者での幹細胞による組織再生治療の改善につながる成果である。

2)精神疾患での神経新生異常に対する薬理学的研究
a)自閉症の関連遺伝子Tbx1は、出生直後のマウスの海馬の神経前駆細胞に多く発現しており、神経新生への関与を明らかにした。神経新生に関与するオーファン受容体GPR56は、うつ病状態を誘発する慢性変動性ストレス刺激により成体ラットの海馬での発現が低下し、うつ病との関連が明らかになった(精神科学講座との共同研究)。精神疾患での神経新生異常の解明につながる成果である。

3)幹細胞機能に影響を及ぼす細胞内機構の解明
a)ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)の増殖には、Gq共役型受容体シグナルの活性化が関与していることを明らかにした 。また、アンジオテンシンtype 1受容体を刺激すると、マウスiPS細胞の心血管前駆細胞への分化を促進することを示した。
b)神経伝達物質の受容体であるalpha1アドレナリン受容体やD1ドーパミン受容体を介した刺激が、マウス側脳室由来神経前駆細胞の遊走を促進させた。また、beta1アドレナリン受容体刺激が、Aキナーゼの活性化を介してマウスiPS細胞の神経細胞への分化を促進することを示した。これらの結果は、iPS細胞による心血管組織あるいは脳組織の再生治療効率化につながる成果である。
c)ヒトiPS細胞由来の腸管幹細胞に対して、腸管上皮細胞への分化誘導時にTNFの刺激を加えると、Wnt/beta–catenin の細胞内シグナルに影響して分化を抑制することを明らかにした。炎症性腸疾患における腸管粘膜再生障害の解明につながる可能性がある。

4)自閉症や神経発達障害における細胞外シグナル伝達キナーゼ(ERK)の役割に関する研究
a)我々は東京都健康長寿医療センターと共同でERK2標的遺伝子欠損マウス(ERK2ノックアウトマウス)を作出し、生体におけるERK2の役割を解析している。これまで、ERK2が神経発達や記憶学習などの分子メカニズムにおいて重要な役割を果たしていることを示してきた。
b)自閉症の危険因子として臨界期におけるERKの活性化異常が重要であることを明らかにした。この事は発達期の麻酔薬曝露による神経回路発達異常と大きく関わっていると考えられる(麻酔科との共同研究)。
c)痛みの伝導制御、特に神経障害性疼痛などの神経可塑性においてERKが重要な役割を果たしており、その詳細な分子メカニズムの解明を行っている。これらの知見は新たな治療法開発の基盤につながる可能性がある。

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