内科学(血液・膠原病アレルギー)
(1)沿 革
本教室は、平成24年4月に内科学講座のうち血液領域(内科3)と膠原病領域(旧内科1)が一緒になり発足した。しかしながら、そのルーツは内科学第3講座にあり、創立以来の沿革について紹介する。
昭和52年に初代高谷治教授が国立がんセンターより着任し、専門である乳腺疾患・内分泌代謝に加え、血液、呼吸器、神経疾患を主たる診療・研究領域する内科学第3講座が開設された。その後、平成2年に第2代永田直一教授(内分泌代謝、カルシウム代謝)に引き継がれ、平成10年からは第3代元吉和夫教授(血液、造血因子)がその任にあたった。平成18年4月には第1から第3の内科学講座が統合されて大内科講座制がひかれた。内科診療科長が構成する内科教室会を定期的に開催して内科全体の問題に対応するようにはなったが、研究診療体制ともに依然三部門制が継続され、内科1・2・3と通称呼称されるようになった。平成21年4月に木村文彦(血液、造血因子・造血細胞移植)が講師から教授に昇任した際、呼吸器と感染症(内科2)を併せ感染症・呼吸器内科が内科2に設立された。その後しばらく、内科3は血液内科・神経内科・内分泌代謝内科の3診療科体制となったが、平成24年4月の内科再編により内科3は血液・膠原病アレルギーと神経・抗加齢血管の4診療科、2ユニット体制となり現在に至っている。
この間、平成18年10月に佐藤謙が助教から講師に昇任。平成19年3月には池田宇次助教が静岡がんセンター血液・幹細胞移植科部長に栄転した。木村の教授就任とほぼ同時に中村幸嗣がUC転官で助教に着任したが、平成22年6月参議院選挙に出馬するため退職。平成25年3月に小林真一が同じくUC転官で助教に着任した。また、研究室業務に従事していた大澤有紀子技官は、定員削減のため平成24年4月助教に採用となった。平成30年10月佐藤謙講師が帝京大学附属溝口病院第四内科教授に栄転、平成31年4月小林真一助教が講師に昇任した。令和4年10月には加藤章一郎が制服医官のまま、救急調整官付のポストで着任し、助教として教室に加わった。診療科の体制として、専門研修医数名が診療に、研究科生数名が主として研究に従事している。
一方、膠原病・アレルギー内科は、平成22年3月に、鈴木王洋講師が退職。以後、松本光世助教が唯一のスタッフとして科を守っていたが、診療の規模を縮小せざるを得ず、また研究活動も小規模の臨床研究以外は休止を余儀なくされた。平成23年7月にようやく伊藤健司講師が就任したが、専門研修医、研究科生ともに不在、同年12月に松本助教が退職したことも重なり、大学病院の臨床科とはとても呼べない体制が続いた。平成24年3月から、高橋令子助教が着任、同年11月より、研究科生2名が入校し、研究活動も再開された。平成27年高橋助教の退職後、助教が定員削減を受け、血液内科の小林助教の昇任に伴って空いた助教枠を使って、平成30年10月堀越英之がUC転官で助教に着任した。堀越助教は令和3年10月CU転官で海上幕僚監部に戻った。令和2年10月より研究科生が入校。世の中は新型コロナの混乱下で大規模接種センターの立ち上げに時間をとられながらも基礎研究を再開。令和4年4月より東京大学 アレルギー・リウマチ内科から吉田良知助教が赴任し、臨床業務の安定に寄与してくれている。専門研修医を欠く体制が長く続いていたが、令和5年8月より1名が研修を開始し診療体制も充実しつつある。
(2)教育の概要
卒前教育として、血液・造血器・リンパ系(3年)のうち血液内科学を担当し、造血器疾患の病態、診断、治療について講義を行うとともに、典型的な症例を呈示して基本的な診断アプローチについて演習をおこなっている。第5学年のクリニカルクラークシップでは、学生の受持症例について学生症例検討会、教授回診、血液カンファレンスと複数のプレゼンテーションと討論の機会を設けて、臨床的な思考過程や決断の方法、社会的な視点を含めた多面的な患者の捉え方など臨床現場を意識した実習を行っている。
また、鈴木洋司輸血部部長の退官に伴い、平成23年から感染症系(4年)で血液製剤・移植と感染症の講義を、平成24年には機能医学系(臨床検査実習、4年)で輸血学講義を担当した。臨床実習でも輸血を実施する側としての適応や注意点についても指導を行っている。木村は平成26年から医学導入教育の臨床医学概論を担当し、第1学年に積み上げ学修の重要性を説いていたが、低学年学生のモチベーション低下に危機感を抱き、小グループでプレゼンテーションを行う医学導入教育を令和2年度から企画し、令和4年度からは医学教育担当の栗原教授に引き継いだ。
卒後教育では、木村が新内科専門医プログラムの統括責任者を努め、医官専門研修の最初に内科全科ローテイトを設けて、経験症例の均てん化を図った。
膠原病・アレルギー内科は、各科と連携をとりながらの幅広い病態に対応する臨床活動を背景に、免疫・アレルギー・膠原病系の中で、3年生に対し膠原病の内科系統講義を行っている。また、5年生に対する病棟実習と実習時のクルズスを通じて、専門科教育にとどまらない総合医療教育を実践している。
(3)研究の要約
元吉前教授のマクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)を中心とした造血因子研究の伝統を引き継ぎながら、慢性骨髄性白血病(CML)や造血細胞移植の研究を加えつつ、最近は単球に由来するfibrocyteと骨髄線維化に研究の中心を移してきた。骨髄バンクの登録データの解析からは、非血縁者間同種骨髄移植後にM-CSFを投与すると慢性GVHD全体の発症頻度は変わらないながら重症慢性GVHDの頻度が減少することを見出した(Bone Marrow Transplant)。小林真一はCMLの病態・臨床両面について研究を進め、BCR/ABLはc-junの発現を抑制して慢性期CMLの好中球分化を促進し(Leukemia)、リンパ芽球性急性転化ではイマニチブ耐性リンパ芽球はBリンパ球系造血幹細胞から分化することを明らかにした(Ann Hematol)。慢性期症例に対して、治療前Sokalスコアがlowの場合は低用量のイマチニブでも奏効することも報告した(Ann Hematol)。また、日本成人白血病研究グループJALSGの共同研究では、イマチニブ治療抵抗性Ph白血病症例60例のBCR-ABL変異を解析し、P-loopの変異とT315Iを有する例は予後不良であることを示した(Leukemia Res)。渡邉はステロイド薬が著効した慢性骨髄単球性白血病症例の遺伝子プロファイルを次世代シークエンスで解析し、家族性地中海熱の原因遺伝子MEFVの変異が関係していることを見出した(Int J Hematol)。小林彩香は急性GVHDの患者単球の発現プロファイルからTGFβシグナル伝達経路のTAK1の重要性を見出し、GVHD動物モデルで阻害剤の有効性を示した(Int J Hematol)。
木村は骨髄バンクの移植成績の解析から、ABO不適合は非血縁者間同種骨髄移植後の生存率を低下させ、肝GVHDを増加させることを見出した(Haematologica)。木村は日本造血細胞移植学会(現、日本造血・免疫細胞療法学会)のドナー別(血縁・非血縁)・移植細胞ソース別(骨髄・末梢血・さい帯血)による移植成績WG長を平成27年度から4年間務め、CIBMTR、Eurocordとの共同研究を始め多くの多施設共同研究をハンドリングした(BBMT、Leukemia、Haematologicaなど)。この中で、ABO不適合非血縁者間同種骨髄移植の年代推移について解析し、GVHD予防法の進歩によってABO不適合の影響がなくなってきていることを示した(Bone Marrow Transplant)。
前川は自衛隊熊本病院赴任中に、木村の共同研究者であった熊本大学エイズ研究所長鈴氏のもとで研究の糸口を見つけ、単球由来のfibrocyteが骨髄の線維化に重要な役割を果たしており(Leukemia)、抗SLAMF7抗体がその分化を抑制して線維化を軽減することを報告した(Blood)。fibrocyteは骨髄線維化の新たな切り口として注目されており、リンパ系腫瘍による二次性骨髄線維化機序の解析、骨髄線維化解除機構の解析と研究の幅が広がってきている。今後も積極的に共同研究を行い、基礎と臨床の両面から診断や治療に還元できるような研究を目指して努力していきたい。
膠原病分野では、基礎研究では、1)関節リウマチ滑膜細胞の特異性および免疫系との相互作用、2)制御性T細胞の分化調節と膠原病の病態について、3)炎症性疾患における微小粒子による病態形成、など基礎の教室や、防衛医学研究センターの協力を仰ぎながら、幅広い分野で研究を進めている。
一方、臨床研究としては、当科を主として、1)関節リウマチに対する多剤併用療法、2)自己免疫性疾患に対する免疫抑制療法下でのサイトメガロウイルス再活性化/感染症の発生と、原病の予後に対する影響についての検討、3)膠原病患者における末梢循環障害の評価における、光音響画像技術の有用性の検証、4)慢性炎症性疾患の鑑別診断における18F-FDG PET/CTの有用性に関する研究、5)新型コロナウイルス(COVID-19)感染症を含む、呼吸器感染症重症化因子に関する研究:特に血小板由来微小粒子(Platelet Derived Microparticles: PDMP)の関与など多彩な研究を展開。多施設共同研究への参加は、1)関節リウマチ患者における呼吸器感染症、2)FDG-PET/CTの不明熱診断への応用−ガリウムSPECTとの比較研究、3)ANCA関連血管炎、全身性強皮症、多発性筋炎・皮膚筋炎、全身性エリテマトーデス、ベーチェット病に関連する遺伝子多型に関する研究、4)リウマチ・膠原病における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)レジストリ”Rheumatology COVID-19 Registry”を利用した多施設共同観察研究、5)関節リウマチ患者におけるリンパ増殖性疾患に関する研究、6)全身性エリテマトーデス患者の末梢血シングルセル情報を有したコホートによる妊娠合併症の発症機序の解明と発症リスクの同定、7)関節リウマチに対するトファシチニブとアバタセプトの効果とその臨床的有用性の比較など多岐にわたっている。