医学科 Medicine

内科学(感染症・呼吸器)

内科学講座(感染症・呼吸器)は、平成21 年に川名明彦教授によって立ち上がった新しい講座です。令和7 年3 月の川名教授のご退官に伴い、同年4 月に君塚善文が教授に昇任しました。令和8 年4 月現在、当講座の教官は、君塚教授・第二内科部門長、石岡講師、小川講師、槇兼任医師および川名名誉教授のメンバーで構成されています。
当講座は、感染症学および呼吸器内科学という二つの広大な領域の教育・臨床・研究を担う臨床教室ですが、防衛省・自衛隊の要請に基づき、「どちらかの専門性のみを持った研修ではなく、感染症も呼吸器内科も満遍なく対応できる専門家の養成」を目標としています。
令和2 年のCOVID-19 パンデミックを武漢からの帰国便症例から対応し、人工呼吸器を必要とする重症患者を中心に数多く対応した例をはじめとして、重症新興・再興感染症に対応するチームとして期待されています。そこで、教育面・研究面において、国際感染症学講座(三木田馨教授)と連携しながら後進の育成をしています。
また、当講座は、診療面において、大学校病院感染対策室(新庄正宜室長)、内科学第二講座の枠組みの中で、消化器内科学(穂刈量太教授・内科部長)との連携をはじめとして多くの臨床教室・部門とも協力しています。

(2)–1 卒前教育

医学科第1学年
5月、ハンセン病を対象に、医療福祉、患者の人権、医の倫理を学びます。国立ハンセン病資料館の見学や、元患者である語り部のお話聴講、図書館などでの調べ学習を通じ、班ごとに決めたテーマを追求し、発表会を行います。

医学科第2学年
4月から2月まで約1年間を通じて行われる感染症系科目において、ウイルス・細菌・真菌・寄生虫といった各種微生物の基本的性状、病原性など基本を学びます。

医学科第3学年
4月から1月まで約1年間をかけて本格的な呼吸器病学を学びます。呼吸器外科学、救急部、小児科学の各講座や他大学の招聘講師陣にもご協力いただき、呼吸の病態生理、呼吸器疾患各論(喘息、COPD、間質性肺炎、呼吸器感染症、腫瘍性疾患など)、治療、予防など、より臨床的で高度な内容が含まれます。
1 月から2 月には、感染症実習において微生物学的手技の原理や微生物の取り扱いを含む感染管理の原則を実践します。

医学科第4学年
4月から6月の臨床感染症の講義では、臨床感染症診療の基本、感染制御の実践、新興・再興感染症、最新の化学療法などについて学びます。
10月から11月、救急・総合医学系科目において、感染症・呼吸器内科診療の基礎となる症候学(呼吸困難、発熱、喀痰、血痰、喀血、胸水)、肺癌に付随する諸症状などについて学びます。

10月には、基本的診療技能実習としてOSCE(Objective Structured Clinical Examination;客観的臨床能力試験)に対応できる診療技術を学びます。少グループに分かれ、繰り返し実習を行います。
1月から2月には、研究室配属の学生を数名受け入れ、研究グループの研究活動に実際に参加することで研究能力の養成を行います。学内の研究報告会で高い評価を受けた者は、その後、第5 学年あるいは第6 学年の夏季休暇を利用して、米国ハーバード医科大学マサチューセッツ総合病院の世界トップレベルの研究室へ短期留学をさせています。

医学科第5学年
臨床実習が主となります。学生には実際に感染症や呼吸器疾患の患者を受け持たせ、模擬カルテを毎日記載することで、疾患に関する知識を深めるとともに、診療に伴う責任感とやりがいを経験します。また、カンファレンスに参加し、診断や治療プランの策定にも参加します。そのほかスタッフによる多くのクルズス(レクチャー)があります。

医学科第6学年
医師国家試験終了後に、「卒業生のプロフェッショナリズム:医師の誓いとバイオセキュリティ」と題し、バイオテロ対策、感染対策と患者の人権、医の倫理などについて、医学科での最後の講義が行われます。

(2)–2 卒後教育

初任実務研修(卒後1~2年目)
感染症科と呼吸器内科が共存している当科のユニークな特徴を最大限に生かし、指導医のもとで指導医・専修医・研修医の屋根瓦方式の指導体制とし、呼吸器疾患と感染症の入院患者を受け持ち、基礎から応用、手技まで幅広く学びます。毎日の症例カンファレンス、外科・病理・放射線科との合同カンファレンスを通じ、診断や治療方針策定を学び、また胸部画像診断、気管支鏡検査など当科特有の技術の基本を習得します。

専門研修(卒後5~7年目)
教室の指導方針として、基本領域である「一般内科」を重視します。特に卒後3~4 年目の各医官の赴任地により臨床経験の差が基本的診療能力の違いを生じる問題を研修内容の強度によって是正します。更に、サブスペシャリティとして臓器専門性の高い対応能力を重視し、「呼吸器専門医」「気管支鏡専門医」資格の取得を感染症専門医よりも優先します。
ただし研修においては、呼吸器内科および感染症科の専門的な知識と技能を両分野の指導医の元で同時に学ぶことになります。外来診療、他科からのコンサルテーションへの対応、当直業務や気管支鏡検査、人工呼吸器の操作、院内感染制御活動、初任実務研修医の指導と多種多様な業務を行うことで、あらゆる医療現場で主体的に活躍ができる医官となることを目指します。専門研修期間では、防衛医科大学校以外の部外病院研修として、関東を中心とした高い臨床強度をもつ施設や高い専門性を持つ二つの施設を選択し研修する制度も準備しています。
更に、診療する中で生まれた臨床的疑問を解決する意思を尊重し、専門研修医の科学的思考の素養を育むため、感染症学、呼吸器病学における基礎研究・臨床研究を指導します。卒後6 年目の日本呼吸器学会および日本感染症学会の総会における発表や論文投稿を目標に、専修医全員が研究活動に取り組む体制となっています。当教室は防衛医学に関連する施設の特色を活かした防衛省管轄内外および国内外の施設との共同研究も進めており、その研究成果が自衛隊衛生業務に活かされるよう積極的に取り組んでいます。

研究科
専門研修の期間に育んだ研究的思考を追求し、高い見識を備えた医学研究者として医学博士号の取得を目標としています。また、感染症学会、アレルギー学会などの個別の分野の専門医資格を支援します。指導者的立場として教官らと共に後進の指導にも参加し、指導医資格も取得します。希望者には国内留学や米国ハーバード医科大学校をはじめとして海外の一流研究室への留学をサポートします。

本講座では、感染症学と呼吸器内科学が融合した、『社会に貢献できる研究』を目指しています。スタッフそれぞれが特色ある研究テーマを展開し、専門研修医が多様な領域から興味を持った分野を選択することが可能となっています。

(3)–1 光を用いたワクチン効果増強の研究

君塚・槇らは、現在、医用工学講座(石原美弥教授、櫛引俊宏准教授)および防衛医学研究センター(川内聡子教授、角井泰之講師)との学内共同研究、および米国ボストンにあるハーバード医科大学マサチューセッツ総合病院、大阪大学微生物病研究所、慶應義塾大学理工学部との学際的な国際共同研究で「非侵襲的な光の照射が生体の免疫機能を活性化する作用を用いたワクチンの増強技術」の研究を展開しています。

現在、予防接種に使用されているワクチンの多くは、安全性の観点から病原体そのものではなく、病原体のからだの一部を抽出して製剤化されていることが多いため、ワクチンの効果が落ちてしまうことがあります。そこで、アジュバント(免疫賦活剤)と呼ばれる生物・化学物質を添加し、ワクチン接種時の反応を高める工夫がされますが、既存のアジュバントには投与部位の疼痛・炎症などの局所反応に加え、疲労・筋肉痛といった全身反応がみられることがあり、副作用の問題が完全には解決できていません。

そこで君塚らは、より効果的で安全なアジュバントの開発を目指し、「ワクチン接種部位へ前もって低用量の赤外光線を照射することで、アジュバント効果が得られる」ことを明らかにしました。

君塚ら国際共同研究チームは、更にこの技術を最適化し臨床応用することを目標として、その分子機序の解明や小型レーザー機器の開発にも従事しています。
光は、既存の生物・化学物質のように身体に残存することもありません。レーザー脱毛や入れ墨除去などの他分野の医療行為に既に認可・使用され、臨床的な安全性は広く認知されており、この技術が社会実装すれば、副反応が懸念される既存のワクチン製剤の投与量を減らすことにより副反応を減らすことも期待されます。

君塚の研究

光を照射したマウス皮内の毛細リンパ管(緑)は拡張し、Langerin 陽性細胞(赤)の皮膚所属リンパ節への遊走に寄与します。
(Kimizuka et al. J Immunol 2018)

(3)–2 航空自衛隊との共同研究:ワクチン接種戦略の最適化に関する研究

近年、自衛隊では国際平和協力活動や災害派遣などの拡大に伴い、海外派遣が重要な任務の一つとなっています。海外派遣に際しては、派遣地域に応じて様々な感染症に対するワクチン接種が必要とされています。

しかしながら、ワクチンによる免疫の持続期間や追加接種の必要性については、十分な科学的根拠が確立されていないものも少なくありません。そのため、必要以上のワクチン接種が行われる可能性も懸念されています。

槇は、航空自衛隊との共同研究として、自衛隊入間病院と連携し、各種ワクチンの接種回数が抗体価に及ぼす影響や、時間経過に伴う抗体価の減弱について検討しています。これにより、海外派遣の可能性がある隊員に対するワクチン接種の最適化を図るとともに、科学的根拠に基づいた感染症予防戦略の構築を目指しています。

槇の研究

入間基地で採取された国緊要員のA 型肝炎の血清抗体価と接種回数との関係(Maki et al. Vaccine 2023)
接種回数が増すほどに抗体価が上昇し4 回以上の接種回数で経時的な減衰が見られなくなる傾向が観察された。

(3)-3 肺非結核性抗酸菌症の臨床的検討

渡邉は、現在、慶應義塾大学医学部感染症学教室と共同し、肺非結核性抗酸菌症における宿主側の病態、とくに好中球に着目した研究を進めています。
肺非結核性抗酸菌症は、難治性の慢性進行性呼吸器感染症として知られており、近年、特に日本において罹患率の増加が注目されています。

本症の発症や進展には、病原体側の要因に加えて宿主側の要因も深く関与していると考えられますが、その詳細な機序には未だ不明な点が多く残されています。また、治療の中心となる長期間の多剤抗菌薬併用療法も、その効果は限定的であり、副作用や耐性化が臨床上の課題となっています。

渡邉らは、これまでに当院受診歴のある肺非結核性抗酸菌症患者の画像所見およびその経時的変化を解析し、治療導入後においても、気管支拡張や空洞形成といった不可逆的な画像所見が進行しうることを報告しました。更に、現在は肺非結核性抗酸菌症における宿主応答の解明を進めています。このような取り組みにより、今後、より詳細な病態解明を通じて肺非結核性抗酸菌症に対する新たな治療法の開発に寄与することが期待されます。

渡邊の研究

図: 肺非結核性抗酸菌症の画像上の病変の拡がりを数値化し特別な解析をすると、ある因子は無治療経過観察期間には悪化し(A)、治療を開始すると改善する(B)ことが分かりました。病変因子の特徴から2系統へ分類でき肺病変はこの2系統の混在によって成り立つという概念(C)を提唱しています。 (Watanabe et al. Heliyon 2023を筆者が一部改変)

(3) –4 COPD(慢性閉塞性肺疾患)に対する新たな治療標的の探索

COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、主に長年の喫煙によって肺が徐々に壊れていく病気です。息切れや慢性的な咳・痰が主な症状で、日本では約530 万人が罹患していると推定されており、WHO は2021 年時点でCOPD を世界第4 位の死因と報告しています。
COPD は肺の機能低下にとどまらず、心臓病や骨粗しょう症、うつ病など全身にさまざまな影響を及ぼすことが知られており、患者さんの生活の質(QOL)を大きく損なう深刻な疾患です。
重症喘息は、気管支喘息の5–10%程度の割合を占めており、吸入ステロイドやその他の併用薬を用いてもコントロールが不十分な状態となっています。頻繁に発作を起こすため、生活の質(QOL)が低下し、満足な日常生活を送ることができません。慶應義塾大学医学部呼吸器内科学教室宮田医師との共同研究では「重症喘息の病態を解明することで、より適切で効果の高い治療法を開発すること」を目標としています。

現在、吸入薬によって症状と進行を和らげ、増悪を抑制する治療が中心となっており、一度壊れた肺の組織を回復させる治療法はいまだ存在しません。この現状を打開するため、小川は「肺を再生・修復する」という新しいアプローチから治療標的の探索を進めています。 呼吸器外科との緊密な学内共同研究体制で連携し、手術で切除された肺の残余検体から細胞を直接単離して解析するというアプローチをとり、実際の患者さんの肺を用いることでより臨床に即した研究が可能となっています。

小川は特にCOPD 患者肺における「R-spondin2」 というタンパク質に注目しています。R-spondin2 は肺の再生・修復に関わる重要なシグナル伝達に関与するタンパク質ですが、COPD 患者の肺の線維芽細胞(肺の構造を支える細胞)では、健常者と比べてその発現が著しく低下していることを発見しました。 さらに、肺の組織を維持・再生する「幹細胞」のような役割を担う AT2 細胞(2型肺胞上皮細胞) にR-spondin2 を添加する実験を行ったところ、炎症に関連する遺伝子の発現が低下し、さらにCOPD の発症リスクを抑える遺伝子の発現が上昇することが確認されました。
この発見は、R-spondin2 がCOPD の新たな治療標的となりうることを示す有望な成果です。肺移植に頼らずとも「肺の再生力を高める」という全く新しい治療戦略につながる可能性があり、今後はそのメカニズムの解明とともに、将来的な治療法の開発を目指して研究を進めています。

小川の研究

左図 今回明らかにしたCOPD 患者さんの肺におけるR-spondin2 の発現制御機序と機能の概略図 右図 ヒト肺から単離した線維芽細胞にタバコ煙から抽出した有害物質を添加し、R-spondin2 の発現を評価しました。緑色で表したR-spondin2 はタバコ煙抽出物質により発現が低下したことを示しています。

(3) –5 気管支拡張症における気道上皮の役割と新たな治療メカニズムの解明

気管支拡張症は、肺の中の空気の通り道である「気管支」が慢性的な炎症や感染によって異常に広がり、変形してしまう病気です。慢性的な咳や大量の痰、繰り返す肺炎などが主な症状で、患者さんの日常生活に大きな支障をきたします。

気管支拡張症の気道では、「好中球」と呼ばれる免疫細胞が過剰に活性化し、炎症を悪化させることが病気の主要なメカニズムのひとつであることがわかっています。近年、この好中球の活性化に深く関与する酵素「DPP-1(ジペプチジルペプチダーゼ-1、別名CTSC)」を抑える「DPP-1 阻害薬」が気管支拡張症に有効であることが明らかになりました。この薬剤はすでにアメリカで承認されており、日本でも近い将来使用できるようになることが期待されています。

これまでDPP-1 の研究は主に好中球における役割に焦点が当てられてきました。しかし小川は、肺の気道の表面を覆う「気道上皮細胞」にも注目しました。気道上皮は単なるバリアではなく、炎症の制御にも積極的に関わっていることが近年わかっており、この細胞における DPP-1(CTSC)の役割を解明することが新たな研究課題となっています。
小川は呼吸器外科と連携し、手術で切除された肺の残余検体から気道上皮細胞を直接単離して解析する手法で研究を進めています。その結果、気管支拡張症に関連する特定のサイトカイン(炎症を引き起こす物質)の刺激によって、気道上皮細胞でのCTSC の発現が上昇することを発見しました。さらに、CTSC そのものが気道上皮において好中球を活性化させるサイトカイン発現を上昇させる、という新たな仕組みを明らかにしました。

この発見は、DPP-1 阻害薬がこれまで考えられていた「好中球への直接作用」に加え、「気道上皮を介した炎症増幅を断ち切る」という新たな経路でも効果を発揮している可能性を示しています。こうした作用機序の全体像を解明することで、DPP-1 阻害薬のより効果的な使い方や、どのような患者さんに特に効果が期待できるかといった治療戦略の最適化に役立てることが期待されます。

(3)–6 遺伝医療からアプローチする呼吸器診療

石岡は、呼吸器疾患を臨床遺伝学の視点から捉えることに関心を持ち、呼吸器疾患と遺伝的背景との関連について検討を進めています。呼吸器疾患は環境要因の影響を受けやすいことが特徴ですが、近年、線毛機能不全症候群や肺癌をはじめとする呼吸器疾患においても、遺伝的背景の関与が示唆される報告がみられています。

今後、呼吸器診療においても遺伝学的検査の重要性は高まっていくと考えられ、遺伝的背景が治療方針の選択や患者さん・ご家族への支援に関わる場面も増えていくことが予想されます。

そのため、臨床情報や公開データベースを活用し、若年発症の呼吸器疾患や家族歴を有する症例など、遺伝的背景の関与が考えられる患者群について、その特徴を整理し理解を深めることを目標に取り組んでいます。

石岡の研究
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防衛医科大学校病院 防衛医学研究センター English