内科学(神経・抗加齢血管)
神経内科
沿革
当科は、昭和60年1月に鎌倉惠子先生が本学非常勤講師として旧第三内科に着任されたときに始まった。旧第三内科は血液、内分泌、呼吸器から構成されていたが、この時新たに神経グループが加わることになった。鎌倉先生は国立精神神経センター(現独立行政法人国立精神・神経医療研究センター、NCNP)の研究員から昭和63年5月に本学第三内科講師に着任され、防衛医科大学校神経内科グループが正式に発足した。鎌倉先生は平成10年に防衛医科大学校第三内科助教授(准教授)に昇任され、初代神経内科科長として現在の脳神経内科学講座の礎を築いた。
これまでに、当講座で後期専門研修医(専修医)として在籍したものは、中村良司(防衛医大4期)、細田義人(5期)、阿部浩(7期)、只野豊(9期)、神谷俊明(9期)、岡野真道(10期)、海田賢一(11期)、平田彰(13期)、宮本憲一(13期)、西田隆(14期)、望月仁志(15期)、西井貴誠(17期)、神崎真実(18期)、門間一成(20期)、小川剛(21期)、田邊肇(21期)、汐崎祐(23期)、本郷悠(23期)、竹島慎一(26期)、角谷真人(28期)、角谷(佐野)彰子(29期)、冨樫尚彦(29期)、森口幸太(29期)、粂田健一(30期)、髙﨑寛(31期)、中川慶一(32期)、山﨑啓史(32期)、和田大司(32期)、堀内(田中)碧(34期)、古屋佑一郎(35期)、松井太郎(35期)、阪本直広(36期)の32名である。鎌倉先生は退官の折に、聖書の「一粒の麦」の譬えを引いて自身の職歴を振り返られたが、上記のように多くの医師が当科の実りとなっている。平成23年からは海田賢一准教授(防衛医大11期、平成12年当科入職)が第2代科長を務められた。海田准教授は末梢神経疾患、とくに抗糖脂質抗体の研究において顕著な業績を挙げるとともに、多くの神経内科医を育成された。令和2年に埼玉医科大学総合医療センター脳神経内科教授としてご栄転の後も、当科の臨床と教育に密なご連携を頂いている。令和2年に東京大学脳神経内科より鈴木一詩が准教授・第3代脳神経内科科長として着任し、今日に至っている。
当科正規職員(スタッフ)としてこのほか、飯島昌一(平成3年~平成7年)、真先敏弘(平成7年~平成10年)、荒木学(平成18年~平成20年)、尾上祐行(平成22年~平成27年)、東原真奈(平成23年~平成25年)、小牟田縁(平成28年~令和2年)が勤務した。現スタッフは、鈴木一詩(第3代科長、准教授:令和2年~現職)および本郷悠(学内講師:令和元年~現職:防衛医大23期)で、非常勤講師として鎌倉恵子(元当科准教授)、海田賢一(元当科准教授)、園生雅弘(帝京大学教授)、武田克彦(文京認知神経科学研究所長)、中村良司(防衛医大4期)、非常勤医員として北村久美子医師が勤務している。ここ数年の平均的構成はスタッフ2人、研究科1~2人、専修医2~3人である。なお、当科は日本神経学会の方針に従い、令和2年度より標榜科名を「脳神経内科」に変更している。
教育の概要
当院は日本神経学会教育施設、日本認知症学会教育施設、日本脳卒中学会教育施設である。現在の科長(鈴木)は、日本神経学会代議員、日本神経学会関東・甲信越支部の世話人を務めており、学会活動を通じた教育活動を実践している。過去に所属した専修医はほぼ全員が神経内科専門医を取得している。
当科は本学学生の神経内科学教育を担当している。医学科学生第3および第4学年に対する神経学の講義及び診療技能実習、第5および第6学年に対する臨床講義・病院実習教育(BSL)、並びに看護学科における神経学の講義を担当している。
神経内科疾患は多岐にわたり希少疾患も多いため、当科では他施設と連携した教育機会拡充を積極的に推進している。近年の通修先として兵庫医大神経内科、近畿大神経内科、青森県立中央病院神経内科、横浜市立大神経内科、舞鶴医療センター神経内科、帝京大学神経内科、東京大学神経内科、群馬大学神経内科、札幌医大神経内科等がある。専修医の部外研修先として、東京大学神経内科、杏林大学神経内科・脳卒中センター、北里大学脳神経内科、埼玉医科大学総合医療センター、国立東埼玉病院神経内科等がある。今後も各教室員の志向や必要性に応じて拡充していく予定である。
研究の要約
発足当時の研究室は内分泌グループの一部を間借りしていたが、当時の第三内科永田直一教授のご厚意により現在の第2研究室(通称2研)の半分を神経内科で使用する運びとなった。今日に至るまでに各種実験機器を2研内に整備し、小規模ながら細胞実験・組織染色・動物実験に至るまで一貫した研究が実施できる態勢となっている。また、中央検査室内に電気生理検査・研究用の筋電計、脳波計も整備しており、臨床例を対象とした電気生理学的研究も実施可能である。当科の研究は多くの連携医療・研究機関のご厚意による研究環境の整備・拡充および共同研究を通じて発展してきた経緯があり、部内外の研究協力機関との連携は当科が特に重視しているところである。
これまでに、鎌倉は筋内酵素の中枢神経における分布に関する研究や培養神経細胞を用いた抗糖脂質抗体の神経障害作用に関する研究、飯島は神経生理学的研究、真先は末梢神経組織の構造研究、海田は神経免疫疾患における抗ガングリオシド抗体の研究で各々業績を挙げてきた。小牟田、本郷も神経免疫疾患の研究を継続中である。歴代の研究科生は、中村が神経疾患と関連する興奮性アミノ酸の研究、海田が抗ガングリオシド抗体の病的意義に関する研究、只野が筋組織の微細構造に関する研究、望月が中枢神経の電気生理学的研究、平田が筋ジストロフィーにおける遺伝子研究、神崎、小川、汐崎、角谷、髙﨑、山崎が抗ガングリオシド抗体をはじめとする神経免疫の研究、門間が筋ジストロフィーの研究、本郷が解剖学教室との共同でコリン作動性介在ニューロンの研究等、多領域にわたり研究を行ってきた。
現在当科では、免疫性末梢神経疾患及び中枢神経変性疾患を重要な研究テーマに掲げている。前者の領域では、免疫介在性ニューロパチーにおける抗ガングリオシド抗体の臨床的意義、神経障害作用に関する研究、抗NF155抗体関連疾患における中枢神経障害に関する研究、脂質混合ガングリオシド抗原による血清反応の増強効果の発見、自律神経症状を有するGuillain-Barré症候群における抗GQ1b抗体の意義の解明、などが最近の成果である。後者の領域ではアルツハイマー病を中心に、大規模データを用いた認知症性疾患の自然歴に関する研究、外傷性脳損傷による認知症発症の動物モデル作成と予後規定因子の解明に関する研究が進行中である。その他に多発性硬化症、視神経脊髄炎に関する臨床的および免疫学的研究、Parkinson病に対する臨床的研究を継続中している。また、日本神経学会「ギラン・バレー症候群、フィッシャー症候群診療ガイドライン」に、作成委員として関わっている。臨床研究では若手教室員による症例報告や論文執筆を積極的に行うとともに、過去に国際治験や医師主導型治験を実施してきた実績を活かし、今後も必要に応じ参画する予定である。
抗加齢血管内科
沿革
当診療科は昭和58年8月に中村治雄教授が第一内科教授として着任されたときに始まった。循環器、膠原病、動脈硬化、脂質代謝を包括する第一内科の長であったが中村教授は脂質代謝の専門家であった。中村教授と同時に着任された近藤和雄先生(現お茶の水大学生活環境教育研究センター長)の下に、平田文彦(4期生)、池脇克則(5期生)、西脇正人、鈴川満雄、並木雅彦(6期生)、山下毅、冨安幸志(7期生)、吉田博、細合浩司、西尾栄助(8期生)、繁英樹(9期生)、伊藤利光、中島啓(11期生)、東賢治(12期生)、綾織誠人(現抗加齢血管内科指定講師)、高橋行広(13期生)、米村篤(14期生)、澤田正二郎(15期生)、柳内秀勝(16期生)、岩本紀之(18期生)、小倉正恒(19期生)、中家和宏(21期生)、滝口俊一(22期生)、薬師寺恵美(22期生)、佐々木誠(24期生)、小松知広(26期生)、西田尚史(28期生)、荒川純子(28期生)、遠藤康弘(32期生)と卒業生の専攻が続いた。その間東京慈恵会医科大学青戸病院内科から石川俊次先生が助教授として着任された。平成10年3月中村教授が退官され、石川助教授が転出された後、大鈴文孝教授の下、脂質代謝、動脈硬化の臨床、研究が継続された。そして、平成20年4月、池脇克則教授が老年内科教授として着任し、綾織誠人指定講師、近藤春美助教、佐々木誠助教がスタッフとなった。平成24年4月、内科改編伴い抗加齢血管内科と改称して今日に至っている。
教育の概要
卒前教育は2、3年生を対象として内科学系統講義、5、6年生を対象として臨床講義、病院実習教育(BSL)を行っている。
卒後教育としては、初任実務研修、専門研修、研究科で臨床教育、研究指導を行っている。
研究の要約
中村治雄教授着任後の初期の研究内容は省略し、池脇教授が着任後の研究内容を紹介する。まず、池脇教授が米国国立衛生研究所留学時に習得し帰国後一貫して行っている研究が安定同位体を使ったヒトトレーサー研究である。我が国でこの研究を実施しているのは当研究室だけであり、国内外の施設と幅広く共同研究を行い、NEJMを始めとしてトップジャーナルに論文発表している。現在、佐々木誠、遠藤康弘助教を中心に、HDLの抗動脈硬化作用の基礎的研究を行っている。中でも特質すべき業績としては、コーヒーポリフェノールがHDLのコレステロール搬出反応を促進すること(近藤)、ABCG1異化のメカニズムの解明(小倉)、ABCG1転写制御の解明(綾織)、idolのPCSK9を介したLDL代謝調節機構の解明(佐々木)、内皮リパーゼのHDL代謝への影響(滝口)などがあげられる。