医用工学
新着情報
- 2023.10.25 ホームページを更新しました。
沿革
平成23年4月に第2代教授・石原美弥が着任し、同年11月に准教授・櫛引俊宏、翌年4月に助教・大川晋平(現・浜松医科大学 教授)が着任した。平成22年4月に着任した助教(令和4年4月より学内講師)・平沢壮、令和4年4月に着任した助教・石川智啓、令和5年10月に着任した助教・新楯諒を含めた5名の講座員と、4名の派遣職員が在籍している。当時の医学部としては先駆的であった医用電子工学講座(現・医用工学講座)を昭和55年に開講された初代教授・菊地 眞(防衛医科大学校名誉教授、公益財団法人医療機器センター理事長)から引き継ぎ、医工連携を体現する講座を目指している。学内・他大学や研究機関との幅広い交流を通じて研究・教育レベルの向上に努めており、医学と工学の融合を先導する学際的かつ斬新的な研究・教育活動を意欲的に実施している。
研究内容
光技術の医療応用
医用工学、読んで字の如く、工学技術を医学・医療に活かすための分野である。医用工学講座では、「光」という共通のキーワードを持ち、講座員の専門を活かしつつ、臨床に役立てることを目標にしている。すなわち、研究イメージに図示したように、「光で診ると治す」というコンセプトを共有し、定期的に研究相談会を開催し、活発に意見を交わしている。令和5年度は、講座員4名とも研究代表者として文部科学省科学研究費の助成を受けている。
細胞からヒトまで適用可能な光音響イメージング研究
光音響イメージングは、光を吸収して生じる超音波(光音響信号)を観測し、生体組織や細胞内の物質(光吸収体)を非侵襲的に画像化する技術である。光音響イメージングは血液中に含まれるヘモグロビンを高感度に画像化できるため、生体内の微細な血管網の画像化の実績がある。当講座では、主にヒトや実験動物を対象とした超音波診断装置型の光音響イメージング装置と、主に細胞や摘出組織を対象とした顕微鏡型の光音響イメージング装置を開発し、医学に関連する様々な応用について総合的に研究を推進している。
超音波診断装置型の光音響イメージング装置は、超音波診断用の超音波プローブに、光ファイバー等で構成される光照射系を組み合わせることで、リアルタイムに断面画像を表示できる。この装置を用いて、基礎医学応用・臨床医学応用を指向した研究を実施している。
泌尿器科学講座との共同研究では、前立腺がん診断における有用性について検討する臨床研究を実施した。産科婦人科学講座との共同研究では、光音響イメージングにより酸素飽和度分布を計測する技術を開発し、ウサギの胎盤内の血液酸素飽和度を計測し、周産期モニタリング技術としての有用性について検討した。この他にも、脳神経外科、乳腺外科、神経内科、循環器内科など、学内の多くの講座と共同研究を実施した。形成外科との共同研究では、軟部組織中の腫瘍・嚢腫の局在や質的診断に関する臨床研究から、リンパ浮腫に対する外科治療におけるリンパ管走行の術前評価への応用に発展している。
https://doi.org/10.1016/j.urology.2017.07.008
https://doi.org/10.1002/pros.23122
学外研究機関との共同研究も積極的に実施しており、東京大学大学院薬学系研究科教授・浦野泰照先生との共同研究では、酵素などと反応してがん組織でのみ光音響信号を増強するイメージング試薬を利用した、がんの光音響イメージングに関する研究を実施している。
文部科学省の新学術領域研究「シンギュラリティ生物学」に参加し、 大阪大学産業科学研究所・永井健治教授及び生理学研究所・村越秀治准教授と共同で、色素タンパク質(GFPと同種の蛍光タンパク質のうち、特に蛍光を発生する効率の低いもの)でラベル化した細胞をイメージングすることで、特定の細胞の生体内での局在のみならず活動・機能に関する情報を取得する手法に関する基礎研究を実施している。
国立がん研究センター先端医療開発センター内視鏡機器開発分野長・池松弘朗先生(本校19期卒)との共同研究では、光音響イメージングで微細な血管を可視化することで病変範囲を評価することにより、消化器系のがんの診断における有用性について検討している。
顕微鏡型の光音響イメージング装置は、細胞単位・毛細血管のスケールで生体、摘出組織、培養細胞を観察できる。この装置による生物科学研究や医学研究の発展に資する画像の取得を試みている。泌尿器科学講座との共同研究では、前立腺がんの血行性転移のリスク因子である血中循環腫瘍細胞(Circulating Tumor Cells)をin vivoで可視化する技術の開発に関する基礎研究を実施している。
これらの研究成果として得た知見は防衛医学分野においても有用と考えられ、医用工学講座では光音響イメージングをはじめとする光及び超音波を用いた生体計測技術を駆使し、特殊環境においても運用可能なリアルタイム生体モニターシステムの開発(特殊環境における耐性スクリーニングと対策に関する研究/防衛医学基盤研究A)及び、自衛隊員への適用を想定した先進技術の開発(ガスを基軸とした、診断と治療の一体化研究/防衛医学基盤研究A)に関する研究を推進している。
光音響技術を用いた軟骨再生医療の評価法に関する研究
東海大学医学部外科学系整形外科学教授・佐藤正人先生と共同で、「光音響原理に基づく力学特性計測法」を開発し、既にヒト変性軟骨診断への有用性を検証している。また、佐藤先生は、細胞シート工学を用いる軟骨再生医療の研究で、npj Regenerative Medicineに自己細胞を利用する場合と同種細胞を利用する場合の研究成果をそれぞれ掲載されており、当講座は関節鏡検査時及び術後フォローアップ時に光音響原理に基づく力学特性計測法を適用し、関節軟骨修復再生効果を力学特性という指標で評価している。
臓器・組織の再生に向けた光技術の開発
①光技術を用いた細胞機能制御
低出力の照射パワーで生体や細胞に光を照射し、その生理活性変化を利用して疾病の治療を行うphotobiomodulationに関する研究を行っている。細胞内光受容体の存在と光受容に続く生理活性変化、光照射後の細胞内シグナルカスケードの変化や光照射後の遺伝子発現調節を解析し、創傷治癒効果、抗炎症効果、抗浮腫効果、骨折治癒効果、慢性疼痛の改善など、光治療を臨床へ提案することを目指した研究を行っている。
https://doi.org/10.1364/AO.434817
https://doi.org/10.1155/2015/974864
https://doi.org/10.3390/biology11020301
②光技術を用いたバイオマテリアル開発
光照射エネルギーに応じて形態変化や柔軟性を示すフレキシブルな生体適合性バイオマテリアルを開発している。生体適合性が優れているコラーゲンやゼラチンなどのタンパク質性材料と、光エネルギーを吸収して化学反応を開始する化合物(光開始剤)を混合し、患部に滴下後、光を照射することによって光化学反応による分子間架橋結合が形成され、患部においてハイドロゲルを形成させる。このハイドロゲルから組織再生に必要な細胞増殖因子を一定期間にわたって徐放化できる技術を開発し、臨床に使用できる再生組織材料の研究を行っている。
③光技術を用いた遺伝子発現制御
オプトジェネティクス(光遺伝学)は、光のエネルギーを受容して活性化される分子を遺伝子工学的手法により細胞に発現させ、その細胞の機能や細胞内シグナル伝達を光技術によって操作・制御する技術である。これまでの再生医療や細胞移植療法による細胞・組織の機能代替だけでは不十分であった領域に対して、オプトジェネティクスによる移植細胞の刺激や再生組織機能の改善を目指した研究を行っている。
受託研究
- 光音響画像化技術における対物レンズの適性度の確認(シグマ光機株式会社)
- 光音響化技術の顕微鏡応用に関する研究(横河電機株式会社)
-
光音響イメージング用プローブの有用性評価(住友化学株式会社)
他、数社
教育内容
医学科、看護学科
医学科第1学年に対する情報技術、第2学年に対する機能医学系(医用工学)の講義および実習、ならびに看護学科第1学年における情報リテラシーを担当している。教育の目的は、高度な情報技術や医用技術・医療機器を臨床の現場で有効かつ安全に使用するための基礎知識を習得させ、併せて診療科横断的な科学的な知識を身に付けさせることにある。医学教育 モデル・コア・カリキュラムに従い、情報技術では、情報リテラシー、医療における安全性確保、コミュニケーションとチーム医療、課題探求・解決の基本事項について講義している。医用工学講義では、個体の構成と機能、電磁波・超音波に対する生体の反応について講義し、医療機器を用いた診断と治療について講義している。また、近年の医学研究の発展に合わせて再生医学、生体組織工学、遺伝子工学や光医学・光生物学などの最先端領域についても講義している。さらに、東海大学医学部外科学系整形外科学教授・佐藤正人先生(12期・非常勤講師)、防衛医学研究センター特殊環境衛生研究部門教授・藤田真敬先生(13期)、自衛隊仙台病院長・中岸義典先生(17期・招聘講師)、国立がん研究センター先端医療開発センター内視鏡機器開発分野長・池松弘朗先生(19期・招聘講師)、東京女子医科大学先端生命医科学研究所准教授・松浦勝久先生(20期・招聘講師)、防衛医科大学校泌尿器科学講座助教・新地祐介先生(28期)、浜松医科大学光尖端医学教育研究センター教授・大川晋平先生(招聘講師、2022年3月まで医用工学講座学内講師として在籍)、防衛医科大学校病院医療情報部副部長・脇坂仁先生に講師を依頼し、高い専門性を持つ立場から先端的な医用工学・情報技術についての講義も行っている。
医用工学の実習では、実際に臨床現場で使用されている超音波診断装置、心電計、ペースメーカーや血流計などの医療機器を医学生のうちから積極的に使用し、医療機器や医用材料への意識を高く持つよう指導している。さらに、講座内で行っている最先端研究の一部を実習に取り入れ、医学生に対する医学研究マインドの醸成だけでなく、探求心と知的好奇心を持つよう指導している。
医学研究科
医学研究科生へ下記研究の指導を行ってきた。
(2013年度以降)
医学科卒期/講座名 | 博士論文/進行中の研究内容 |
---|---|
瀧川 真人 24期 医用工学 |
ラット後肢挫滅症候群におけるフラグミン・プロタミンナノ粒子を担体に用いたFibroblast Growth Factor-2の有効性に関する研究(博士(医学) 2016) |
精 きぐな 27期 産婦人科 |
光音響技術を用いたウサギ胎盤の組織内血液酸素飽和度計測に関する研究(博士(医学) 2018) |
新地 祐介 28期 泌尿器科 |
尿道狭窄予防を目的とした薬剤徐放尿道カテーテルの開発(博士(医学) 2019) |
田地 一欽 30期 泌尿器科 |
前立腺癌における in vivo 血中循環腫瘍細胞(CTC)検出に向けた光音響顕微鏡技術の開発(博士(医学) 2023) |
中山 瑛子 31期 形成外科 |
青色光照射の尋常性痤瘡への治療効果と発生する活性酸素種の研究(博士(医学) 2023) |
尾島 健一郎 32期 泌尿器科 |
ウサギ尿道狭窄症モデルを用いた尿道拡張術後の再狭窄予防に関する研究(博士(医学) 2023) |
山城 利文 33期 形成外科 |
局所陰圧閉鎖療法の作用メカニズムの解明(在籍中 2020~) |
平野 裕資 35期 泌尿器科 |
ウサギ尿道狭窄症モデルを用いた新しい尿道再建術に関する研究(在籍中 2021~) |
メンバー
スタッフ
研究補助
真弓 芳稲
濵 宗子
宮下 愛美
佐藤 美奈子
事務職員
下川 麻衣子
医学研究科生
山城 利文(形成外科)
平野 裕資(泌尿器科)
アクセス
研究業績
最新の研究業績はresearchmapをご覧ください。
教授 石原 美弥
https://researchmap.jp/read0142561
准教授 櫛引 俊宏
https://researchmap.jp/ToshihiroKushibiki
学内講師 平沢 壮
https://researchmap.jp/takeshi_hirasawa
助教 石川 智啓
https://researchmap.jp/tomohiro_ishikawa
助教 新楯 諒
https://researchmap.jp/r.shintate